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2012年第22号より

第3期寺島文庫リレー塾 第1回講義が開講しました!
第一回講義 講師:寺島塾長 「2012年秋―世界の構造転換と日本」

 第3期となる寺島文庫リレー塾が、10月3日(水)に日本工業倶楽部会館(東京・千代田区)において開講しました。初回は寺島塾長が、「2012年秋―世界の構造転換と日本」をテーマに講義を行いました。以下、その一部内容をご紹介します。

▼8月にカタールで開催された第37回中東協力会議に講師として参加した。ペルシャ湾を中心に中東地域をドーナツに喩えると、中心に近いカタール、サウジアラビア、UAEは湾岸産油国として繁栄する一方、外円部であるエジプト、チュニジア等の国から揺らぎかかっている。また、イランの核施設に対して国連制裁へと舵をきろうと、米国は躍起になっているが、この状況にイスラエルも焦燥感を募らせている。昨今「イスラエルがイランの核施設攻撃を実行するのではないか」という話題が出るが、イランは巧みに核施設を分散させ地下深く埋め込んでいるため、簡単に封じ込めることはできないだろう。このように今中東に大きな地殻変動が起こっている。米国はシェールガス、シェールオイルの発見に沸き、中東にエネルギー戦略上依存しなくてもいい要素が見え始め、次第にアジアシフトしつつある。スリーマイルの事故以来33年ぶりに原発増設計画を認可するなど、エネルギー戦略も変化し始めている。一方、日本は脱原発を議論にあげているが、東芝や日立はじめ、日本を代表する企業が世界の原子力産業の中核を担っている現実を理解しなければならない。米国と本気で向き合う覚悟と気迫がなければ、日本は脱原発を果たせないだろう。

▼中国が世界に向け英語で発信する国際放送CCTVは、尖閣問題をはじめ領土などをめぐる問題に焦点を当て、中国の立場から日本についての批判を展開し、国際的なイメージアピールを戦略的に図っている。この問題で重要なのは米国の立ち位置である。米国は日中両国に配慮して、あえて中立的立場をとっている。この曖昧作戦ともいうべき構造が日中関係をより複雑なものにしているが、日中関係=米中関係という構図に気付くべきである。7、8年前は経済的ネットワーク上の仮説概念であった「大中華圏」が今や現実となりつつある。大中華圏とは本土の中国だけでなく台湾、シンガポール、香港を含む概念だが、現在中国の経済成長は、これらを包括した相互ネットワーク型の発展を遂げている。さらに経済的連携だけでなく政治的意味も持ち始めた点が重要だ。2008年の北京オリンピック以来、「中華民族」という表現が頻繁に使用され、同朋意識をより深化させる意図も感じられる。 日本人はもっと視界を広げ、近隣諸国には馬鹿にされたくないという程度の矮小なナショナリズムに傾倒するのでなく、21世紀型国際関係への構想力を高めなくてはならない。