歴史の重要性:目的を再設定する際に考える過去の選択と進化
ペトラ・カルロヴァー(Petra Karlova, Ph. D.)
研究を行う上では様々な情報を収集しますが、実際に論文に掲載するのはその半分にも満たないと私の指導教授はよく強調されます。つまり、多くの情報を集めても、目的に対して必要な情報しか載せないということです。
このように物事を進めるうえで、必要なものが何かを理解して選び出し、不要なものを取り除く作業は、様々な場面において必須の条件となります。
明治の日本人は、日本の物事の多くを排除せざるを得ませんでした。そして、西洋と対等な立場になるように、欧米の技術や学問を勉強し、欧米の文物を導入しました。その一つの例が洋服です。現代の日本を見ると、洋服は完全に日本化され、日本の独特なファッションスタイルもいくつか生まれて、一つの日本文化としてアジア、そして世界に発信されています。一方で、現在では日常的に和服を着用する日本人はほとんどいません。普段着としての必要性が失われてしまったのです。
19世紀末、日本の文化芸術がどのようなものかを再定義しようとした岡倉天心は、日本民族の特徴は新しいものを取り入れて、古いものを保存するということだと主張しました。一見、日本の伝統は十分に残っているように見えますが、これまで進化してくる過程で、失われた伝統が存在します。しかし、それには理由があるのです。
日本人が洋服を着始めたのは、幕末時代、欧米を訪問した際に日本使節団が着ていた和服が欧米の女性服に似たところが多かったため、まともな印象を与えることが難しかったためです。つまり、和服を着ていては、西洋人に対等な相手として受け入れられないという理由から洋服を着始めたのです。そして、洋服は新しい文明の象徴にもなったのです。
しかし、目的は時代、状況によって変わります。例えば、日本舞踊をする外国人が舞踊コンテストに出場しようと思えば、和服の正しい着付けを知る必要があります。しかし、残念ながら着物の着付けどころか浴衣の着付けさえ分からない日本人が多く、浴衣で盆踊りを楽しみたい外国人は、浴衣の着付けを手伝ってくれる日本人がいないために困っています。
つまり、問題は古いものが必要ないのではなく、そのものが今必要かどうかで判断されるということです。昔必要なくなったものが、今役立つことは十分にあります。生きたまま保存された伝統は、幾分しか残っていませんので、過去の歴史から掘り出して、「新しい目的」を見直すことが必要になります。一度選択したことが永遠に全く変わらないことはないのです。