2013年第25号より
多摩大学寺島実郎監修リレー講座 2012年度秋学期講座(全12回)
寺島実郎学長による最終講義が行われました!
2013年1月10日(木)、多摩大学リレー講座が最終回を迎え、寺島学長が登壇しました。学生と西東京地域を中心とした社会人を対象とした本講座は、過去5年間で延べ人数約6万人の受講者を迎えてきました。
本日の講義テーマ「2013年への展望―日本の進路」を論じるにあたり、冒頭で寺島は年始に訪問した奈良県明日香村に触れました。岡寺の如意輪観音塑像は、空海が日中印3か国の土で造ったと伝承されているように、自身にとって明日香は日本がユーラシア大陸との連携の中で紡いできた歴史を実感する場であると語りました。
しかし現代の日本は、近隣諸国との不信感を解消せずに21世紀を迎えました。習近平総書記は「中華民族の栄光」を唱え、中国を超えて中華文明にアイデンティティを持つ大中華圏の人たちの自尊心を喚起しています。寺島は、数年前までは仮説であった大中華圏が今では政治的実態となりつつあるとして、日本がこの地域といかに向き合うべきかを真剣に考察する必要があると強調しました。
次に寺島は、17世紀オランダを例として、あらゆる社会現象を結ぶ関連性を認識する大切さに触れました。例えばレンブラントの絵には、イベリア半島や東欧地域からオランダに亡命したユダヤ人の悲劇が投影されているとして、絵画からと当時の技術や経済活動、そして国際関係が連想できると指摘しました。
さらには、日本社会や仕事観の変化にも言及しました。昨年の紅白歌合戦に強烈な印象を残した「ヨイトマケの唄」の一節には「僕はエンジニア」という歌詞があるが現在では3.11以降の原発専門家に対する世の中の不信感などエンジニアは必ずしも成功モデルとは言えないと述べました。しかし、額に汗して現場を支える健全な経済感覚を忘れるべきではないとして、感情論で経済活動や技術者を軽視する傾向にある近年の風潮に警鐘を鳴らしました。
最後に寺島は、プロジェクト・エンジニアリングの必要性を強調しました。例えば、農業改革や京浜医療特区構想は大きな可能性があります。しかし、これらの実現には目標に向かって推進する構想力とリーダーシップが必要です。日本が持つ世界一流の人材・資源・技術を共通目標の元で有機的に束ねる能力こそが、今の日本に問われていると受講者の時代認識に訴えました。
講義後には皆勤賞表彰式が開かれ、寺島が表彰賞を受講生代表に手渡し、2012年秋学期のリレー講座は盛況のうちに幕を閉じました。
2013年度も引き続き多摩大学リレー講座を開催いたします。
詳細は多摩大学寺島実郎監修リレー講座事務局(http://www.relay-kouza.net/)にてご案内いたします。