2013年第28号より
寺島文庫・GIN総研フォーラム 開催報告
会場 : 日本工業倶楽部会館
4月19日(金)、「寺島実郎の視座―2013年の世界と日本を見すえて」と題した寺島文庫・GIN総研フォーラムを開催しました。日本工業倶楽部会館2階大会堂に集まったおよそ130名の聴講者に対し、寺島は、チンパンジーと人間のDNAの差異や、最近発見された5300年前のアイスマンから得られた最新の科学的知見を材料として、人間とは何か、また人類の進歩とは何かといった根源的な問題を提起して講演をはじめました。
まず、17世紀オランダを出発点として、現代社会を構築した「近代」の諸相を解き明かし、可能な限り長い「歴史の射程距離」の中から現在を見つめる視座を聴講者に求めました。しかし、現在の日本人は、株価の動きに目を奪われ、また周辺国に舐められたくないという小さなナショナリズムに陥っており、昨年まで日本を覆っていた原発に関する議論すらも人々の関心事ではなくなったとして、浅薄な時代認識を危惧しました。また、現在の株高も外国人投資家による「売り抜く資本主義」の誘導であり、決して実体経済に基盤を置いた「育てる資本主義」ではないと指摘しました。そして、アベノミクスのインフレターゲット政策は「失われた20年」の被害者である資産家には恩恵を与えるが、実体経済を支える労働者の家計を潤わせるのかは疑問としました。特に労働人口の34パーセントが年収200万円以下という現状を改善できるのか、今後も注意深く見守る必要があり、将来「あれはいったいなんだったのか」と反省することがないようにと警鐘を鳴らしました。
次に話題を国際関係に転じ、尖閣問題を巡る日米中関係を俎上に上げました。アメリカは、現在の険悪な日中関係に巻き込まれることを避けており、日中両国の期待を繋ぐため曖昧な態度に徹している。さらには米中戦略対話等を通じて米中両国は日本人の想像以上に信頼関係構築に努めているとの現状を確認しました。しかし、日本人は米中対立を願うばかりであり、しかも頼みのアメリカからも4月28日の「主権回復の日」式典を戦後秩序を否定する右傾化の兆候と受け取られる恐れがあるとして、日本の適切な現状認識と対応を求めました。
寺島の講演終了後、会場をレセプションホールに移し、ご参加の皆様相互の交流や寺島との懇談が行われ、大いに親睦を深めました。