寺島文庫

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2011年第6号より

多摩大学 寺島実郎監修リレー講座『21世紀初頭の10年を超えて』 寺島実郎学長講義
2011年6月9日(木) 会場:多摩大学 多摩キャンパス001教室

tama_relay_spring   去る6月9日(木)、寺島実郎が学長を務める多摩大学で寺島実郎監修リレー講座が開催されました。今回は折返しの中間回となる第7回講義として寺島が教壇に立ちました。
  講義前半、寺島はユーラシアのダイナミズムと日本の関わりについて話しました。3.11東日本大震災が人間関係をフラットにしたことを考える上で参考となる親鸞の絶対平等主義は、空海が遣唐使として中国滞在中に触れたであろうキリスト教にも影響された可能性があり、日本の仏教もユーラシア大陸とは想像以上に交流・相互依存の関係にあったことに言及しました。そして小説『親鸞』の作者・五木寛之氏の、グローバリゼーション時代には和魂洋才ならぬ「洋魂洋才」になるよう強いられるという指摘に触れ、こうした状況への違和感を覚えていた矢先、3.11は我々がこの先どのように生きていけばよいのかということを考えさせる衝撃を与え、この問い直しが求められていると述べました。

  講義後半、宮城県震災復興会議副議長も務める寺島は、我々の喫緊の課題である震災復興をテーマとして、この基軸に産業基盤の創生と雇用の確保を提案しました。まず、もともと人口減少・高齢化という過疎化の進展していた東北圏には、若者が東北のバイタル産業である第1次産業で隆々と生きていく生活基盤が必要で、農業生産法人や農業流通法人の連携等システムとしての農水産業を再構築していくことが必要と語りました。さらに製造業についても、円高、風評被害、電力や税金値上げ懸念等のもとでは、海外流出の加速が避けられず、震災復興特区等のインセンティブが必要と述べました。
 また、日本の貿易だけでなく米中貿易の物流経路も日本海側へシフトしている現状から、アジアダイナミズムと向き合う日本海側と被災地である太平洋側の相関が復興の鍵であると言及し、さらに宮城県沿岸被災市町村の復興に向けて、グランドデザインを考慮に入れた防災、産業創生、環境・エネルギー、民政安定を軸にした具体的でリアリティーのあるプロジェクトの必要性について語りました。
 さらに、「参画」という視点の重要性に触れ、今の日本は「挑戦したい」と思わせるテーマを提示することに失敗していると指摘しました。そして「あるべき姿」を描くだけではなく若者がそこに積極的に参画できるプラットフォームの整備を説き、復興計画の実行部隊「復興プロジェクト推進隊」としてボランティアでなく200~300万円の年収を確約するプロジェクトを創り、それに現在約1400兆円の個人金融資産の大半を有する高齢者が、例えば相続税が減免されるというインセンティブが付いた無利子国債を購入することで財源面で「参画」するという一つのモデルを提示しました。最後に「今、日本人の底力が試されている」と切り出し、「将来のために協力したくないという日本人はいないと確信している」と述べました。そして、「政治家、指導者が、国民の参画を訴えるだけの気迫と構想力をもっているかが問題である」と締めくくりました。

2011年第5号より

親鸞聖人750回御遠忌讃仰行事「今を生きる親鸞」東本願寺講演会
2011年5月10日(火) 会場:京都東本願寺


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  2011年5月10日(火)、京都東本願寺において親鸞聖人が亡くなって750年にあたる御遠忌讃仰講演会が行われ、寺島実郎は「今を生きる親鸞」というテーマで全国から集った高僧や門徒たち約350人を対象に講演を行いました。
 
  寺島は冒頭に、約4年前に高野山夏季講座で空海をテーマに講演した体験に触れ、遣唐使として当時の超先進国の唐・長安に留学し、真言密教の真髄を習得し、現代の理系エンジニアリングに通じる様々な工学技術を日本にもたらした天才としての空海を、親鸞と対照的な人物として語りました。講演では「親鸞聖人の深さ、偉大さは『目線の低さ』であり、3.11東日本大震災のような極度の危機に直面したとき人間社会は瞬時にフラットになり、貴賎や善悪、階層が無意味となり、専修念仏の下での絶対平等を説いた親鸞の言葉の意味を、今日本人が深く実感している」と述べました。
 
   親鸞の名がインドの世親(せしん)と、中国・曇鸞(どんらん)に源があるように、ユーラシアを流れる浄土教思想を広く吸い込んでいる事、また阿弥陀仏あるいは神の前での絶対平等という宗教比較面でのキリスト教(かつては景教とも呼ばれた)との接点について述べ、ユーラシア大陸の豊かな思想が相互啓発し浄土真宗に繋がっていると論じました。親鸞の凄みは教義を読んで知るのでなく、心に秘めて全身全霊で時代と闘ってきた面にあり、親鸞700回忌には1961年91歳だった鈴木大拙が講演会を行い、安保改定で日本が揉めた時代に<真宗の中にある日本人が外の世界になし得る偉大な貢献は、弱者と普通の人のための日本仏教の理念>と語った思想について言及しました。親鸞以前の仏教は国家が保護し育てた存在だったのに対し、時の権威者と距離を取り衆生民衆の側に基点を置くパラダイム転換となった事が正に「目線の低さ」である。五木寛之が述べた和魂和才を再考する時、世界に通用する開かれた和の魂として、仏教のパラダイム転換として登場した親鸞の存在感を実感すると述べて講演を締め括りました。
 終了後は場内の質疑に応え、原発事故を経て日本はエネルギーのベストミックスに知恵を絞り、技術蓄積と人材育成という面で原子力の平和利用を積み上げる立場にある事、また「他力」は常に自力との緊張感があり、やはり自分を律する姿勢が大事であろう点について話し、盛大な拍手に包まれ講演会を終えました。

2011年第3号より

寺島文庫リレー塾 「世界を知る力 ―いま、本当に考え抜くべきこと―」 第10回講義
2011年3月9日(水) 会場:早稲田大学 井深大記念ホール

Part3  2011 年3月9日(水)夕刻、東京新宿区の早稲田大学井深ホールにて第10回目(最終回)の寺島文庫リレー塾が開催されました。講師は寺島実郎塾長で、 「日本創生への基軸」というテーマで講義が行われました。時間を超過して行われた熱のこもった最終講義に、300人余りの聴講生(社会人、学生等)が真剣 に耳を傾けました。講義の要旨は以下の通りです。

 時代認識を深める目的で始めたこのリレー塾の志を持続して開催し続けたい。世界はめまぐるしく動き続けており、確実に全員参加型の秩序に近づいている。要 するに力の論理では束ねきれずに、途上国も含めて誰もが発言を求めて手をあげるといった一見収集のつかない状況にあるが、全員が自己主張する中で自分の国 益と利害を主張していく時代に変わりつつあるということだ。こういった現状において、今こそ日本を創生していく基軸をしっかりと確立すべきだ。それには政 治を可能な限り極小化(代議制民主主義の鍛え直し)し、プロジェクト・エンジニアリングを実現することが必須である。新しいガバナンスで足場を固め、ポス ト自動車産業のすそ野に幅広いシナジーを生むプラットフォーム型産業をつくれば、日本の成長が見込まれるだろう。


2011年第4号より

多摩大学 寺島実郎監修リレー講座2011春学期開講
『現代世界解析講座Ⅳ ー 21世紀初頭の10年を超えて』

2011年4月21日(木) 会場:多摩大学 多摩キャンパス001教室

  2011年4月21日(木)、寺島実郎が学長を務める多摩大学で4年目となる寺島実郎監修リレー講座「現代世界解析講座―21世紀初頭の10年を超えて」の春学期が開講。本リレー講座は、多摩大学の2年生以上の学生の必修科目であるとともに、多摩地域等の社会人にも公開され、寺島のネットワークする産官学メディアの有識者が講師となり全12回開催されます。

 初回は、寺島実郎が講師を務め、3.11の東日本大震災を踏まえ、「直面している構造変化とは何か」をテーマに講義を開始しました。冒頭、寺島は震災時の体験を踏まえ、今回の震災によって、現代人は等身大ではない技術に依存して生きていると思い知らされたと語った。当日、寺島は出張のため新幹線で移動中であったが、新幹線の脱線等大事故が発生しなかったことを伝え、震災時に機能したこと・しなかったことを整理することが必要と述べた。また、原発についても、エネルギーベストミックス論者である立場から、原発をただちに廃止すれば済む問題ではないと述べた。その背景には、中国等近隣諸国の原子力開発は加速しており、日本が原発を廃止しても同様のリスクは存在するため、日本は原子力の平和安全利用の技術基盤を蓄積し、技術者を育て、国際エネルギー分野での発言力を高めておく必要があると言及した。

 震災復興プランについては、街並みや堤防を単に造り直すのではなく、日本を創り変える構想が必要と言及し、その前提となる重要な視点・数字として、震災の有無に関係なく予測されている東北6県の過疎化・高齢化・人口減少(人口:2010年1,168万人⇒2050年727万人へ、65歳以上人口比率:2010年25.9%⇒2050年44.6%へと予測)、また、対米貿易から対アジア貿易への貿易構造の変化(対米貿易比重:1990年輸出32%・輸入22%⇒2010年(1-11月)各15%・10%。対アジア貿易比重:1990年輸出31%・輸入29%⇒2010年(1-11月)各56%・45%)を説明。そして、第2次産業の生産拠点の海外への移転が予測される現在において、第1次産業を育て食材王国として東北を復興していくことの重要性、若者が十分に生活できるだけの産業力の必要性について述べ、さらに、太平洋側と日本海側の地域を相関させて戦略を練ることが重要と説明した。


2011年第2号より

財団法人国立京都国際会館 自主企画イベント 「世界の潮流と日本の進路」
2011年2月11日(金) 会場:国立京都国際会館

part2  2011年2月11日(金)、財団法人国立京都国際会館(理事長:稲盛和夫氏、館長:天江喜七郎氏)の自主企画イベントとして、「世界の潮流と日本の進路」をテーマに、同会館の評議員を務める寺島実郎の基調講演および同志社大学法学部教授の村田晃嗣先生との対談、そして懇談会が開催されました。寺島の講演は、世界潮流の事実認識を自身が積み上げてきたデータを共有した上で、戦後から現在まで日本がとってきたポジション、今後米中が戦略対話を行う中、日本がとっていくポジショニング、日米同盟の「進化」について語りました。
 まず、日本の国際関係を議論する上での事実認識として、日本の貿易構造の変化、即ち1990年に輸出32%・輸入22%を占めた対米貿易比重が2010年(1-11月)各15%・10%となった一方で、対中国貿易比重は1990年に輸出2%・輸入5%であったのが、2010年(1-11月)には各19%・22%になったことの意味について、下記資料を参照しながら説明しました。
 次に、日本を取り巻く人流の変化と、2007年に1.28億人でピークアウトし、減少局面にある日本の人口構造を挙げ、2050年に65歳以上人口が39.6%と計測されていることを認識すべきこととして共有しました。
 そして、世界潮流として、冷戦終焉後のアメリカ流資本主義のグローバル化、アメリカのプレゼンスの低下に起因する「覇権無き中東」の行方、全員参加型秩序の時代(無極化・G0の時代)におけるグローバルガバナンスに向けたルールづくりの重要性を述べました。
 最後に、「日米関係は米中関係」という認識の上で、今後の日米同盟の『進化』を考える必要性について語りました。

 的確に認識すべき国際社会との相関

 日本の貿易構造 (アジア・大中華圏への比重移動) : 14%を割った米国との貿易

 輸出に占める比重


   輸入に占める比重

                        (『寺島実郎の時代認識 資料集』2011年新年号より抜粋)

  『寺島実郎の時代認識 資料集』については、こちらをご覧ください。